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GODAKIKAKU

SYNTHESE

-DRAG meets CONTEMPORARY-

2021.1.10.sun

Kyoto Art Center

  Documentation  

Performance Review

嶽本野ばら

review vol.2

DIAMOND——MONDOを肉体化するコンテンポラリー・ダンスの試み
 

 DIAMONDS ARE FOREVER (通称、ダイアモンドナイト) は海外のクラブカルチャーを導入しようとした90年代のアーティストや知識人にとって最先端でした。まだネットのない時代、噂が広がり、東京の友人などにどれだけ細かく訊ねられたことか……。

 オーガナイズしていたのはドラァグクイーンのシモーヌ深雪とDJ Lalaで、シモーヌはシャンソン歌手としても活動していた (現在もしている)。

 最先端のクラブミュージックを体感出来るのは勿論のこと、シモーヌ深雪が上海ラブシアター名義で仲間と共に繰り広げるレビューも楽しめる。派手な衣装、ケバいメイク、キャンプと称されたゲイカルチャー特有の悪趣味な設定でディスコ・ナンバー、はたまた昭和歌謡をリップシンクするが基本のこのショーを目当ての来場者も多かった。

 京都芸術センター『SYNTHESE ——DRAG meets CONTEMPORARY——』はゴーダ企画を主催する合田有紀が、シモーヌ深雪に構成・演出・振付担当を依頼し実現。

 合田有紀はダイアモンドナイトに影響を受けたといいます。ベジャールにならまだしも、トゥシューズすら履いたことがない人間に、コンテンポラリーダンスの主催者が演目の全権を委ねるというのは珍しい。——というか無鉄砲。しかしこの公演はシモーヌ深雪を知る上で重要なものになったと思います。

 シモーヌは僕に「結局、上海ラブシアターのようになってしまった」と笑いましたが、20景からなる舞台、頭にトイレットペーパーを飾るドラァグクイーン、ビニールのドレス衣装を纏ったダンサー、フレンチポップスと共に奇術の如く箱に入れられ、頭だけ出したブブが移動するのみの滑稽、コクトーのバレエ風衣装の女達、ボンデージの男達……確かにそれはフェイクだらけな上海ラブシアターそのものでした。

 ただ、シモーヌをはじめダイアモンドのメンバーも参加する中、合田有紀、ゴーダ企画を共同主催する野村香子など、訓練されたダンサーも投入されているので、どれだけいかがわしくとも、鍛えた肉体と動きがキッチュを凌駕し、時に純然のコンテンポラリー・ダンスを観ている錯覚を起こさせた。

 ダイアモンドには若くしてこの世を去ったダムタイプの古橋悌二も深く関わっていました。
 
 パフォーマンスがクローズアップされた80年代、現代美術の範疇からスタートした古橋悌二のダムタイプの登場は、アングラ演劇が唱えた肉体の復権から身体を解放し、肉体をもインスタレーションにしてしまった。演劇界はそのスタイルと手法に革命の到来を予感しました。

 今でも古橋悌二がもう少し生きていれば、世界は変わっただろうと考えてしまう。

 でもこの公演でシモーヌが古橋悌二の意思を継ごうとしたと考えるのは、外野のセンチメンタルに過ぎぬでしょう。多分、シモーヌは何処にも進路を向けないのです。

 ダイアモンドより少し前、そこにDJとして参加していたYOJI(ヨージ・ビオメハニカ)はCLUB GHOSTと銘打ち不定期のクラブイベントを開催していました。何時、何処でかは非公開。ある時は交通の便もない山中でというふう、ゲストは自分で手掛かりを見つけ会場に辿りつかねばならない。

 クラブカルチャーのスピリットを早期に具現化したまさに伝説のクラブイベントで、ダイアモンドはその流れを汲むともいえますが、CLUB GHOSTにせよダイアモンドにせよ、最先端をアピールしようとそのような試みをしたのではないのが、僕には重要に思えます。

 ドラァグクイーンと括る時、僕らはシモーヌがクラブカルチャーを通じ、クィアの解放をプロパガンダしているよう捉えてしまう。無論、それに無自覚ではない。

 だけれどもシモーヌの興味は常に自身の欲望にあり、恐らく我が箱庭のコレクションを熱心に増やし、育成させているだけなのです。

 長い付き合いですが、シモーヌが理念を熱く語ったことなぞ一度もありません。BLや深夜アニメの話題を振ると途端に饒舌になるけれど……。集めた結果、傍からすればキャンプなものばかりになっているだけで、キャンプをイデオロギーに変えることには関心がない。

 そもそもキャンプそのものが、究極の無感覚(シニカル)ですし。

 シモーヌ深雪には上海ラブシアターもゴーダ企画も区別がない。フォルムだけに拘泥しそこにどんな魂が入っていようが、果実における種のようなものと捨ててしまえる。情熱や功績に振り回される人には全く理解出来ぬダンディズムでしょう。だからシモーヌ深雪の正体は言語化がとても困難なのです。

 ゴーダ企画により選出されたダンサー達が、しかし今回、シモーヌ深雪という容器に入ることで、その輪郭の丹念なスケッチを成功させた。

 ダンサーは自らの肉体を以って語る。

『SYNTHESE ——DRAG meets CONTEMPORARY——』は、シモーヌ深雪という概念をテーマにした合田有紀のコンテンポラリーダンス——と結論すれば、全権を委ねたのは無鉄砲に非ず、クレバーなオーガナイズであったといえるのではないでしょうか。

嶽本野ばら  Novala Takemoto
 

京都府生まれ。2000年『ミシン』で小説家デビュー。『エミリー』と『ロリヰタ。』が三島由紀夫賞候補に、『下妻物語』が映画化(中島哲也監督)され、好評を博した。著書に『シシリエンヌ』『タイマ』『傲慢な婚活』『落花生』などがある。

公式HP・ノバラ座  http://novalaza.com

連載中「帰ってきたそれいぬ」https://hanabun.press/series/soleinu/

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